ロンドンレポートvol.18 モリスの原点。赤い家「Red House」探訪

ロンドンレポートvol.18 モリスの原点。赤い家「Red House」探訪

イギリス在住の大学生ひなさんのコラム第18弾!

 こんにちは。ひなです。

10月に入りだいぶ冷え込みが増し、秋らしい空気が感じられるようになりました。

今回はウィリアムモリスを語る上で欠かせない建築のひとつRed House(レッドハウス)をご紹介します。

ロンドン郊外・Bexlyheath駅から徒歩20分ほどの場所にあり、現在はナショナルトラストが管理する貴重な歴史建築として一般公開されています。


 Red Houseとは

 Red Houseとは1859-1860年にウィリアムモリスが建築家であり友人でもあったフィリップウェブとともに設計したモリス自身の自邸です。

両者ともまだ若く、実務経験を積む前に手がけた作品であるため、建築的に必ずしも完成度が高い訳ではありません。

例えば、日光の入り方が不安定な南側にドローイングルームが配置されていたりと、実用面では問題もありました。

しかし、家全体からはモリスと仲間たちが楽しみながら理想の住まいをつくり上げた様子が感じられます。

モリスが家を手放した後、 何度も改装されモリスが住んでいた当時の姿のままではありませんが「芸術と生活の融合」という彼の思想を体現した空間であることは変わりません。

 現在はナショナル・トラストによって所有・管理されており、木・金・土曜日に約2時間のガイドツアーが開催されています。(事前にチケットの購入・予約が必要)

 

アクセス

 ロンドン中心部から電車で約30分、Bexleyheath駅 から住宅街を歩くこと20分。

閑静なエリアに突然現れる赤レンガの邸宅と大きな門構えは圧倒的な存在感があります。

到着するとガイドの方が予約を確認してくれ、ツアー開始までの時間は庭の散策を楽しむことができます。

ツアーの時間から少し早めについたので庭を散策したり、別館にあるお手洗いをすませておきます。 

庭と外観

 庭はRed Houseを語る上で欠かせない要素です。

モリスとウェブはフランスの中世庭園やアートに強い影響を受け、庭のレイアウトにも時間をかけてデザインしました。

ウィロー(柳)やバラなどで境界をつくり、まるで室内の壁のように空間を区切るデザインが施されています。

現存する当時の写真は残っていませんが、当時の資料から構想の一端を伺うことができます。

 

建物正面は左右非対称で、当時としては珍しいデザインです。

これは外観の均整よりも、各部屋の用途に合わせて窓の数と位置を決めた結果だそうです。

当時の流行りのスタイルではなかったために、その後モリスが家を手放す時は買った時の金額では売れず大損をしたと記録に残っています。

 

室内の見どころ

玄関を入ると、大きな階段と自然光が差し込む空間が広がり、重厚感と温かみが共存しています。

右手に見える棚はモリスが使用していた当時のもので、中央の絵も彼自身が描いたものです。

貼られている壁紙は当時のものではなく、近年になってモリスデザインの壁紙が貼られたそうです。

 

玄関右の部屋には暖炉があり、当時のタイルがそのまま残されています。

赤い棚やモリスが描いた女性像など、当時の雰囲気を感じさせる要素が随所に見られます。

 

階段を上がると、天井には幾何学的な連続模様が描かれており、これがモリスによる最初期の装飾模様といわれています。

天井を支える木の裏にはニコちゃんマークのようなも模様として描かれていおり、最近発見されたというエピソードもユニークでした。

廊下には植物モチーフの美しいペイントグラスが並び、自然と芸術が融合したモリスらしい世界観を感じます。

この技術はステンドグラスとは別のもので、後にモリスを代表するアートアンドクラフト運動への兆しが感じられます。

 

次のドローイングルームでは、モリスがレッドハウス退去後にデザイン・製造した壁紙が展示されています。

木版プリントのために使われた版木2種類や、初期の壁紙3種類のアートボードがあり、間近で見ることができる貴重な機会でした。

また、19世紀のドローイングはもちろんペンで手書きなので水道があったりと用途と時代にあった設備が見受けられました。

 

最後の部屋はリビングルームとして使われていたと考えられ、150年以上の時を経て何度も姿を変えてきました。

かつての壁は模様で覆われていたことが分かっていますが、後の住民による白いペンキで塗りつぶされてしまっています。

どのような模様だったかを想像しながら歩くのも、このツアーの醍醐味のひとつです。

当時描かれていた模様はモリスの有名な作品と比べると幾何学的でありキャリアを歩み始めた若かりしモリスを知れる唯一の場所ではないでしょうか。

 

Red Houseは、建築としての完成度以上に、モリスの理想と若き情熱が詰まった「思想の家」と言えるでしょう。

中世への憧れやフランス美術への影響、そしてアーツ・アンド・クラフツ運動の原点がこの家には息づいています。

ロンドン中心部から少し足を延ばすだけで、ウィリアム・モリスの創作の原点と彼の「日常に宿る美」の哲学を体感できるはずです。

芸術やデザインに興味のある方は、ぜひ一度訪れてみてください。